医療従事者の90%が欲しいといったパンツ

著者情報 Author

フォーク株式会社 製品企画開発顧問
篠崎 彰大 氏
2007年に株式会社ワコール人間科学研究開発センター(旧、ワコール人間科学研究所)所長として、フォーク株式会社と女性向け白衣「ワコールHI コレクション」の共同開発をリード。現在は、データに基づく商品企画や、製造ノウハウに関する豊富な知見から、フォーク株式会社 製品企画開発顧問として様々なアドバイスを行う。
目 次
男女兼用パンツの開発で一番大きな課題は男女の体型差への対応です。
男女の体型差によってどのような問題が生じるのかを明確にするため、企画のメンバーを中心に社内の性別、体型差の異なるスタッフに男性用、女性用のパンツを履き比べてもらいながら、着心地や見た目を調査していきました。
パンツを着用するときはウエスト寸法を目安にサイズを選びますが、設計するときはヒップ寸法をもとに製図します。男女同じヒップ寸法の場合女性の方がウエストが細く、股下も短いので男性が女性用パンツを履いた場合かなり窮屈で丈も短く、着用することすら不可能になる場合もあります。そこで、人体データベースで男女のヌード寸法を細かく比較し、男女の体型差を補う方法を考えることからスタートしています。
パンツを考える上での男女の体型差とは
一般的にパンツのサイズを選ぶときはウエスト寸法を参考にしていますが、パンツを設計するときはヒップ寸法をもとに製図しています。なぜならパンツには、ハイウエストからローライズウエストまでいろいろな種類があり人体のウエスト位置よりずっと下にウエストが来るようなパンツがたくさんあります。それに対してパンツのヒップ部分は必ず人体のヒップ位置と重なります。だから設計するときは人体のヒップ寸法を基準にして製図していきます。

たとえば、男性用パンツのMサイズは人体ヒップ寸法が92cmでウエストが78cm、これに対し女性用パンツのLサイズは人体ヒップ寸法が93cmでウエストが68cmになります。
つまり、同じヒップ寸法における男女の差は、サイズ差でM対Lの1サイズ差、ウエスト寸法差で78cm対68cmの10cm差となります。
※人間生活工学センター アパレル設計用の人体寸法データ集
男女兼用のパンツはこのように大きな体型差がある男女が同じパンツをはいてもちゃんとフィットするように作らなければならないのです。たとえば10cmも差があるウエスト寸法に対応するには、ウエスト部分が10cm以上伸びるパンツにしなければなりません。
だから男女兼用パンツの多くはニット素材を使ったり、ウエストを総ゴム仕様にしているのです。しかしそれではどうしてもカジュアルな印象になってしまいます。ユニフォームメーカーは医療従事者のユニフォームとして患者さんに不快な印象を与えないパンツになるよう知恵を絞らなければなりません。
皮膚の伸びと衣服の伸びの関係

FOLKが男女兼用パンツを開発する過程で大切にしたことは、ニットではなく布帛を使って、医療従事者にとって快適でありながら患者さんに対してはきっちりした印象を与えるパンツを実現させることでした。その開発過程では人間工学的情報を活用してサンプルを作成し着用テストを繰り返して行きました。
詳しくはこちらのコラム
リンク:FOLKがニットではなく布帛にこだわる理由
たとえば医療従事者が希望する動作追随性の良いパンツ「どんな動作をしても突っ張ったり食い込んだりしないパンツ」を実現するには、「ストレッチ素材を使う」+「ゆとり量を大きくとる」+「動作時の皮膚変化量の大きな部位に対応する」といった手段を組み合わせて設計します。たとえばパントンの男女兼用パンツは「ゆとり量を大きくとる」ことで動作による皮膚の変化に対して衣服のズレで対応できるように設計しています。今回のパンツ開発では動作追随性の良さだけでなく、涼しさ「汗をかくようなときでも涼しく仕事したい」もあわせて追及してほしいという声にこたえる工夫を行いました。これらをまとめると以下のようなパンツの開発を行いました。

【1】男女の体型差に対応できるだけのウエスト構造を持つパンツ
【2】工業洗濯に対応できてストレッチ性のある織物を使用したきっちりした印象のパンツ
【3】動作追随性の良さと涼しさをあわせもつパンツ

とくに今回の開発で着目したのが「動作による部位別の皮膚収縮データ」です。
いろいろな動作をしたときに皮膚がどれくらい伸縮するかを測定したデータで、医療従事者が患者の体位変換やストレッチ運動支援の動作をした場合に、どの部位がどのぐらい収縮するか知ったうえで、ゆとり量や生地の滑りだけで吸収出来ない部位はどこなのか、そしてその部分にどのような手段で、どれぐらいの収縮を持たせたら良いのかを数値化し、サンプルを作成し着用テストをすることで後腰部分にニット素材を使用する仕様に行きつきました。

まとめ
フォーク株式会社がメディカルユニフォーム作りにおいて、ニット(編み物)ではなく布帛(織物)にこだわるのは、医療従事者が快適に仕事ができる着用感だけでなく患者さんにきちっとした印象を与え患者さんに信頼していただけることを重視しているからです。
今回の開発で、男女兼用製品として男女双方が着用できる体型対応力が高いだけでなく、きっちりした印象を与えつつ涼しく仕事できるパンツの開発ができました。織物の長所を維持しつつ、ニットの長所を生かす構造を、1枚のパンツに盛り込むことが可能になりました。すでに元気村等で開発済みのスクラブとセットで着用していただことで、さらにその効果を実感していただけると思います。