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コラム

COLUMN

「お見舞いの家族が撮った写真がSNSでトラブルに」弁護士と医療現場が語る、個人情報保護の落とし穴対策

メディカル

個人情報保護の落とし穴対策

「お見舞いの家族が撮影した写真をSNSにアップしたら、
他の家族とトラブルになった」——。

こうした事例が現実の医療・介護現場で起きている。スマートフォンが日常の道具となった今、患者や利用者、その家族が何気なく行った撮影や投稿が、施設にとって深刻な個人情報漏洩問題に発展するケースが増えている。

フォーク株式会社は2026年5月27日、「医療・介護従事者を守るシリーズ第6弾 個人情報保護の落とし穴対策」と題したウェビナーを開催。弁護士による法律解説と、介護現場の管理職による実例報告を組み合わせた構成で、約1時間にわたって議論が展開された。本記事ではその内容を詳しくレポートする。

登壇者紹介

周 将煥(しゅう まさひろ) / 東京弁護士会所属・アルファパートナーズ法律事務所 弁護士
根本 伊左夫 / 医療法人社団光生会 介護保険事業本部 本部長
吉田 一真 / 介護老人保健施設東京ばんなん白光園 事務部長
堀川 可琳 / 株式会社シルバー産業新聞社(進行)
北村 健人 / フォーク株式会社 価値創出部(進行)

第1部
弁護士が解説する「個人情報保護の基本」

弁護士・周将煥氏(左)とフォーク株式会社・北村健人氏(右)による講義パート

「個人情報とは何か」
——1つの情報では特定されなくても、組み合わせで個人が特定される

周弁護士はまず、個人情報の定義から解説を始めた。

個人情報とは「生存する個人に関する情報であって、氏名・生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」を指す。亡くなった方の情報は原則として個人情報に該当しないという点も確認された。

重要なのは「組み合わせ」の視点だ。
周弁護士はこう説明した。

「住所だけだと個人特定にならないんですけれども、どこどこの住所の佐藤さん、と結びつくことで、2つの情報で個人情報の特定になってしまう。1つ1つではなく全体を見る、という視点が大事です」

さらに、医療・介護現場には「要配慮個人情報」が数多く存在すると強調した。

個人情報保護の落とし穴対策
個人情報・要配慮個人情報の定義を示すスライド

要配慮個人情報の主な例は以下の通り。

●診療録・介護記録に含まれる病歴
●健康診断の結果・保健指導の内容
●医療・調剤に関する情報
●障害や犯罪事実に関する情報

これらは通常の個人情報よりも「1段階高い保護」が求められる。
1件でも漏洩した場合、個人情報保護委員会への報告義務が法律上課されるという点も周弁護士は明言した。

医療情報が特別に重要視される理由について、周弁護士は次のように述べた。

「医療情報というのは一生変わらない、その人にとって唯一無二の遺伝情報が含まれている。1人の遺伝情報が漏洩してしまうと、その人だけでなく、家族や親族のDNA的な情報も漏れてしまう。1人の漏洩が複数人の漏洩につながるということで、極めて重要なんです」

判断の基本軸
「本人の自己情報コントロール権の範囲内か」

個人情報保護の根拠は、憲法のプライバシー権——現在では「自己情報コントロール」とも呼ばれる——にある。自分の情報を開示するか、秘匿するか、いつ・誰に伝えるかを決める権利だ。

周弁護士は「難しいケースに出くわしたときは、常にこの基本に立ち返ってほしい」と語った。

「個人情報のケースに出くわしたときは、常にその情報の本人のコントロール外になっていないか、その人の想定内に収まっているかどうかというのがすごく大事な視点です」

第三者提供の原則と例外

院や介護施設が外部(家族を含む)に患者・利用者の情報を提供する場合、原則として本人の同意が必要だ。同意は「言った言わない」にならないよう、必ず記録に残る方法(書面・メール・PCでのチェックマーク等)で取ることが求められる。

ただし、例外として本人の同意なく提供が認められる場面もある。

個人情報保護の落とし穴対策
同意なく第三者提供が認められる例外(生命・身体・財産の保護)を示すスライド

要配慮個人情報の主な例は以下の通りだ。

●法令に基づく場合
医療法に基づく立入検査、薬剤師による疑義照会、警察・裁判所からの照会など

●生命・身体・財産の保護が必要で、同意を得ることが困難な場合
意識不明の患者や重度認知症の方の状態を家族に説明するケース、大規模災害・感染症で多数の患者が搬送された際の迅速対応など

●黙示の同意がある場合
同じ病院の別の診療科への情報共有(治療目的で情報を提供している以上、院内共有は本人の想定内)、本人が紹介状を持参して別の医療機関を受診する場合、本人が同席している場での家族への病状説明など

一方で注意が必要なのが、「同じ病院内の研修での使用」だ。

「自分の病気を治してほしいとは同意しているけれども、研修で学習材料として使うということまでは同意していない。これは黙示の同意がない場合に当たります」

本人からの開示請求への対応

本人から「自分の情報を開示してほしい」と求められた場合、原則として遅滞なく、すべて開示しなければならない。開示の理由を書かせる運用をしている施設もあるが、周弁護士は「理由は関係なく本人の情報だから開示しなければならない」と指摘した。

例外として開示しなくてよいのは、開示により本人・第三者の権利が侵害される場合、業務に著しい支障が生じる場合、他の法令に違反する場合に限られる。

漏洩が起きてしまったときの対応手順

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情報漏洩時の対応手順を示すスライド

漏洩が起きてしまった場合の対応として、周弁護士は以下の手順を挙げた。
1:内部報告と被害拡大防止
2:事実関係の調査と原因究明
3:影響範囲の特定
4:再発防止策の検討・実施
5:影響を受ける本人への連絡
6:事実関係および再発防止策の公表
7:個人情報保護委員会への報告(要配慮個人情報の重大事案の場合)

よくある漏洩の原因として
・シュレッダーせずにカルテをゴミ箱に廃棄する
・電子カルテ画面をつけっぱなしにして次の患者に見られる
・メールの誤送信
・エレベーター内での会話
・同姓患者の取り違え
・外部委託先の管理不足
・パスワード認証のないシステムなどが挙げられた。

現場で今すぐできる準備

周弁護士は最後に、施設側が事前に整備すべき事項をまとめた。

●個人情報管理規定の整備
●個人情報に関する相談窓口の設置
●職員への定期的な教育・研修の実施
●本人同意の取得方法の標準化(書面・PC上チェック等)
●院内掲示の整備(黙示の同意が成立する環境づくり)

個人情報保護の落とし穴対策
院内掲示の具体例を示すスライド:個人情報の利用目的(院内・院外)を明示

院内掲示の具体例として、「当施設では取得した個人情報をこのような目的で利用します」という内容を明示し、患者・利用者が目にできる場所に貼り出すことが示された。

第2部
座談会「現場で起きた3つのケース」

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座談会Case1:患者さんのSNS利用と病院運営のバランス。中央は根本伊左夫氏

ケース1
患者がSNSで職員の実名と病院名を投稿

根本本部長は、複数の病院から聞いた深刻な事例を紹介した。入院中の患者が職員の氏名を実名で挙げ、不適切な発信をしているというケースだ。病院名を出した上での悪意ある中傷投稿も確認されているという。

「職員の実名が個人情報の漏洩に当たるのか」という問いに対し、周弁護士は明確に答えた。

「個人の氏名というのは個人情報の典型例です。
これを悪意を持ってSNSに出されてしまうというのは、漏洩の1つになります」

顔写真についても同様だ。

「顔が写っているということは本人の特定につながりますよね。顔写真自体も個人情報に当たりますので、外に出てしまうのは漏洩の1つということになります」

施設が撮影エリアを制限することの可否について周弁護士は、「施設管理権があるので当然可能ですし、他の利用者・患者への配慮義務もある。あらかじめルールを決めて周知することは、むしろ大事なことだ」と述べた。

ケース2
悪意のない家族の撮影が引き起こした問題

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座談会Case2:施設内の写真・動画撮影をめぐる問題。堀川可琳氏(左)が進行

吉田事務部長は、自施設で実際に起きたケースを報告した。
面会に来た家族が、父親の様子を他の家族に伝えようと施設内の静止画・動画を撮影し、周囲の利用者や職員も写り込んでいたというものだ。

「他の利用者さんの個人情報が絡みますので、やめてくださいということで了解をいただいたんですが、ご家族からするとお父様の様子をお知らせしたかっただけで、悪意はなかったんです」(吉田事務部長)

この経験をきっかけに、職員同士で話し合い、撮影に関する注意喚起の掲示物を作成して施設内各所に張り出す対応を取った。

周弁護士はこの取り組みを高く評価した。

「事前にこういうふうにルールを決めて、掲示をしておくというのは、運用として素晴らしいと思いました。介護施設や病院の中は個人情報がそこかしこにいっぱいある。好き勝手に動画を撮られてしまうと、いつ何が映ってしまうか分からないので、あらかじめルールを決めて掲示しておくことはすごく大事なことです」

「家族が撮影した写真にカルテが写り込んでいた場合、施設側の責任か家族の責任か」という問いには、「ケースバイケース」という答えが返ってきた。

「法人がきちんと管理していて、映らないように気をつけていたにもかかわらず撮られてしまったなら、それ以上法人にはやれることはないので責任を負わない。そういうときは家族の方に対応を求めることになる」(周弁護士)

この観点から、契約書や重要事項説明書への撮影に関する記載、および掲示による周知が、施設側を守るための重要な手段となることが確認された。

根本本部長は、委員会が定期的に開かれ、ナースステーションで入力途中の画面が開いたまま放置されていた問題などを議題として共有・改善している実態も紹介した。

「カルテは表紙に名前がしっかり入っていますから、席を離れるときには裏返しにするなど、些細なことから気をつけていこうという話し合いが委員会の中でなされています」(根本本部長)

ケース3
施設のSNS発信における写真掲載の同意をどう取るか

個人情報保護の落とし穴対策
座談会Case3:施設内での安全な写真活用と個人情報管理。吉田一真氏(左)が説明

吉田事務部長は、施設のホームページや広報紙に行事の写真を掲載する際の同意取得に関する悩みも打ち明けた。現在は掲載のたびに1人ひとりの利用者・家族に電話で確認を取っているが、十数名を超えるケースもあり、1回では繋がらないことも多く、業務負担が大きいという。

「入所時の契約段階で包括的に同意を取り付けることはできないか」という質問に対し、周弁護士は肯定的に答えた。

「契約をする段階で、イベントのときは写真を撮って掲示することがありますよということを書いた書面を渡して、チェックをもらうなり、署名をもらっておく——これを『包括同意書』と言ったりしますけれども——それをもらっておけば、いちいち1回1回確認をしなくても大丈夫だということになります」

認知症が進んでいる利用者も多い環境では、ポスターによる黙示の同意だけでは不十分な場合があるとし、入所時の書面取得が最も安全な対応だと周弁護士は強調した。

質疑応答:スマートフォン利用制限と悪意ある投稿への対処

個人情報保護の落とし穴対策
質疑応答の様子。複数の参加者がリアルタイムで質問を寄せた

ウェビナー参加者からは活発な質問が寄せられた。
主なやり取りを紹介する。

Q:注意しても写真を撮るのをやめない家族がいます。携帯電話自体を禁止すべきでしょうか?

周弁護士は「スマートフォンの使用自体は許してもいいが、施設内での撮影はご遠慮くださいというルールを設けることが現実的だ」と答えた。一律禁止はリスクをゼロにできるが、「待ち時間もスマホを使えない病院には誰も来ない」という経営的なリスクも伴うと指摘。撮影が可能なスペース(面会室など)を用意する工夫も提案された。

Q:病院名や職員名を悪意を持ってSNSにアップされた場合、どう対応すればよいですか?

周弁護士は段階的な対応を示した。

「名誉毀損、個人情報の無断公開、業務妨害など、さまざまな違法行為につながりうる。投稿者が特定できているなら、まず警告文を出して削除を求める。同時並行でSNS運営会社にも違法投稿として削除依頼をする。それでも削除されなければ、損害賠償請求や裁判所を通じた手続きへと手段を強めていくことになる」

匿名投稿の場合は、裁判所を通じた発信者情報開示請求という手段もあり、実際にそうした相談が寄せられているとも語った。

吉田事務部長は「職員を守るために、利用前の段階で文書を交わし、こういった行為があった場合は契約が進められない旨を明記するという対応も1つの方法だと感じた」と述べた。

ユニフォームの視認性が、すれ違いを減らす

ウェビナー後半では、主催者であるフォーク株式会社によるユニフォーム開発の取り組みも紹介された。

悪意ある投稿は、患者と病院・施設スタッフとのすれ違いやストレスから生まれることもある。
そこで注目されるのがユニフォームの「視認性」という役割だ。

フォーク株式会社では、職種・役職ごとに色やデザインを変えることで、利用者が担当者を一目で識別できるユニフォームをいち早く開発してきた。総合守谷第一病院の事例では、看護師・看護補助・クラークの3職種をそれぞれ異なる色で区別し、利用者から「担当看護師がすぐ分かるようになった」と好評を得たという。

根本本部長は「利用者・患者側に立った視点でのユニフォームづくりを進めてほしい」と期待を寄せ、「職員のモチベーションを高め、仕事に誇りを持てるようなデザインも一緒に考えていきたい」と語った。

まとめ

今回のウェビナーで浮かび上がったのは、個人情報保護は「大きなシステムの問題」だけでなく、日常業務の細かな一つひとつに潜んでいるという現実だ。

カルテを裏返して席を離れる
ナースステーションの画面をロックする
撮影に関する掲示を施設内に張り出す
入所時の契約書に包括同意の条項を盛り込む
職員向けの定期研修を続ける

いずれも地道な取り組みだが、「1件の漏洩が複数人に影響し、法人の信用失墜にもつながる」という現実の重さを考えれば、その一つひとつが大きな意味を持つ。

周弁護士はこう締めくくった。

「ケースを考えればきりがないですけれども、必ず本人の自己情報コントロールの範囲内かどうかという基本に立ち返って考えると、これは同意を取っておいたほうがいいね、という判断ができるようになります。継続的に研修を行って、法改正にも対応していくことが大切です」

個人情報保護に「完成」はない。現場の実態を知り、法律の基本を押さえ、継続的に改善を積み重ねることが、職員と利用者・患者の双方を守ることにつながる。

本ウェビナー・アーカイブ視聴

フォーク株式会社では「医療・介護従事者を守る」シリーズとして、現場の課題に寄り添ったウェビナーを継続的に開催しています。

東京弁護士会所属
アルファ―パートナーズ法律事務所
https://www.alpha-lo.jp/
弁護士 周 将煥

早稲田大学法学部、同大学院法務研究科卒業。早稲田大学大学院法務研究科アカデミックアドバイザー。医療・介護分野のほか、企業法務全般、労働事件、訴訟等の紛争解決、一般民事事件、刑事事件など幅広く取り扱う。このほか、医療・介護分野向けのハラスメント対策セミナー等の研修会講師としても活躍し、埼玉県介護・障害福祉事業所等暴力・ハラスメント相談センター 法律相談担当弁護士、横浜市介護事業者向けハラスメント相談センター 法律相談担当弁護士なども務める。

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