脳神経外科医|河野道宏先生
「数は裏切らない」—— 年間約150件の執刀を続ける脳神経外科医が、若き日の修練で得た確信
年間150件、変わらぬペースと進化するスピード

私の元には、日本全国、時には海外からも手術を求めて患者さんがいらっしゃいます。ほぼすべてが手術難度の高い聴神経腫瘍や頭蓋底腫瘍です。年間約150件の手術数、そのペースは今も変わっていません。多い日には1日に2件行うこともあります。
ただ、昔と今とでは決定的に違う点があります。それは「終わる時間」です。 かつては朝まで手術をしていることもありました。しかし今は、夕方には概ね終わります。手術時間は短いもので3時間、長いもので8時間ほどでしょうか。 なぜ早くなったのかと言えば、単純にスピードが上がっているからです。技術というのは、突き詰めればスピードに繋がります。
もちろん、私一人ですべてを行っているわけではありません。
現在、私の下では3つのチームを編成しています。私は週に3回の手術を担当しますが、各チームにとっては週1回の担当となります。若手の負担を分散させつつ、肝心な局面は私が確実に締める。すべてを一人で抱え込むのではなく、組織として高いパフォーマンスを維持し続けるために、今はそのような体制で運用しています。
なぜ、「最も難しい手術」を専門にしたのか

私が専門としているのは、脳神経外科の中でも「頭蓋底腫瘍」と呼ばれる領域です。なぜ、あえてこの道を選んだのか。それは、私が30代前半の頃に出会った先輩医師の存在が大きいです。「こういう手術ができる脳外科医になりたい」と思えるロールモデルがいたのです。
実は、私は脊髄外科医になろうと思っていました。
その後、血管障害のバイパス手術などに興味が移り変わり、最終的にたどり着いたのが、脳神経外科の手術の中で最も難しいと言われるこの領域でした。 難しいということは、手術の成績も悪いということ。成績が悪いからこそ、専門家が求められている。 一番難しい手術を、初めて行う医師や専門外の医師が行っても上手くいくはずがありません。だからこそ、専門家がやるべきなのだと考え、この道を歩み続けてきました。
「タフな外科医」が減りゆく現代医療への懸念

今、医療の現場は変化しています。 昔は「難しい手術こそ自分がやるんだ」という気概を持った、いわば“タフな外科医”が全国にたくさんいました。私の肌感覚では、かつては全国に60〜80人ほどいたような気がしますが、今は20人程度まで減ってしまっているのではないでしょうか。
今の時代、みんな「軽く、軽く」という方向へ行きたがります。
技術的に難しい手術を行い、もしトラブルが起きれば訴訟のリスクもある。それならば、血管内治療や内視鏡といった、比較的身体的負担の少ない方へシフトしていく。それはある意味で、合理的な選択と言えるのかもしれません。医師たちも、重い手術をして自らを苦しめたくないという思いがあるのでしょう。
しかし、医師がリスクを避けるようになったとしても、患者さんが減るわけではありません。
インターネットが普及した今、患者さんご自身が「この病気の手術は難しいのだ」と理解されると、情報を調べて私の元へいらっしゃいます。同業の先生方や、聴力低下から腫瘍を見つけてくださる耳鼻科の先生方からも紹介が届きます。 誰もやりたがらない。けれど、誰かがやらなければならない。この難しい領域に立ち続けること、それが私の役割だと思っています。
集中力の正体と、圧倒的な「数」の裏付け

1-2mmの神経を扱う手術において、どのように集中力を長年維持し続けることが出来るか。 正直に言えば、元来の資質もあるのでしょう。若い頃はトイレにも行かず、朝の5時まで没頭していても平気でしたから。しかし、今の私を支えているのは、そうした資質以上に、過去の圧倒的な経験です。
かつて富士脳障害研究所附属病院で勤務していた頃、私は1日で約150人の外来患者さんを診察していました。
150人を診るということは、1人あたり数分で全ての判断を下さなければならないということです。
瞬時の判断、的確な処置。
それを週3日繰り返す日々でした。当時の経験が、今の私の判断スピードや集中力の土台になっています。
「数は裏切らない」。私はそう思っています。
最難関の手術の経験が100件の医師と2000件以上の医師(2800件、2025年12月現在)。その実力が同じであるはずがありません。圧倒的な場数を踏み、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた経験こそが、自信にもつながるのです。
次世代へ。「師匠を見つけ、学び、乗り越えてほしい」

私が今、注力しているのは「後進の育成」です。先述の通り、困難な手術に挑む医師は減っています。
このままでは、難しい手術ができる人間がいなくなってしまう。
だからこそ私は、やる気のある若手には門戸を広げています。私が理事長を務める日本頭蓋底外科学会のホームページなどを通じて、積極的に手術見学を受け入れています。大学の垣根を超え、学びたいという意志を持つ者であれば誰でも拒みません。
自分の足で動き、見たい手術を見に行く。そして師匠を見つけ、最終的には乗り越えていく。
そのように次の世代が育ってくれないと、日本の医療は守れません。学会としても、若手が手術見学に行きやすい制度や、困難な症例について相談できるネットワーク作りに尽力しています。私たちが持っている技術や経験知は、すべて惜しみなく渡すつもりです。あとは、それを受け取りに来るガッツがあるかどうか。私は待っています。
河野道宏先生ご着用のスクラブ・パンツ・ドクターコート
画像クリックで製品詳細をご覧いただけます。


